鼻を摘んで目を閉じて…
 つい、妙な緊張感にギクシャクしちゃって、本来の目的を忘れかけていたあたしを不機嫌に見やった浩志が、喉を抑えてコホンと咳払いして、執務椅子へと腰を下ろす。




 「…失礼します。総務・事務センターの山本すみれです。遠部課長から、書類を預かってきました」

 「ふぅん、どれ?」




 無愛想に言われて、封筒を差し出す。

 ありがとうでも、ご苦労様でもなく、最低限の無愛想な受け答えで、超感じが悪い。

 そういえば、希美も言ってたっけ。

 人事の戸川さんが、男尊女卑のイヤなヤツって言ってたって。

 男尊女卑…かどうかはわからないし、あたしも知らないけど、たしかにこれだけ整った顔をしていて、愛想の欠片もないと余計に冷たさが増して取っ付きにくい。

 まあ、あたしにしても昔馴染みだとはいえ、親しかったわけじゃない。

 と…いうか、むしろもう二度と会いたくないくらいな相手だった。

 でも、多少は懐かしさもなくはないかな。




 …こいつ、あたしの名前聞いても、なんか感じることないのかな?





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