鼻を摘んで目を閉じて…
 女子社員なんて唯々諾々と、自分の言うこと聞いてりゃいいんだ、的なこの男には、意外なことだったのかな。

 書類を見たまま、一方的にあたしに言いつけていたのに、顔をあげてマジマジとあたしを見返してくる。

 30才前の若造のくせに、こんな立派な執務室を与えられてふんぞり返ってるから、勘違いしちゃうのかもねぇ。

 よくよく考えると、昔からこいつはこういう傲慢というか、勘違い野郎の資質は十分にあったんだな、と思い起こした。

 昔みたいに、気に入らない=実力行使ってわけではないみたいで、冷たい無表情がさらに固くなって、視線も氷点下に下がった気がするけど、いくらヘッドハンティングされてきた期待の星でも、まさかこれくらいのことであたしをどうこうできるはずもないから、余裕のよっちゃんだ。




 …出世にも興味ないし、こいつが思ってるだろうとおり、しょせん腰掛けのあたしに怖いものなんてないわよ。




 まあ、腰掛けにしては、ちょっと長く居すぎてる気もするけど。

 それでもお給料を貰っている以上、それなりに見合った働きをするのは当然のことだし、それを見下されるいわれもない。




 「…ふっ、まあ、いい。あと1,2時間もすれば 眞城も帰ってくるだろ」

 「じゃあ、失礼…」




 します、と言いかけたところで、腕時計を確認した浩志が、




 「もうすぐ3時か。そろそろ休憩してもいい頃だろ、お前、付き合えよ」

 「………は?」




 幼馴染みだとも思い出していないのに、いきなりお前呼ばわりですか!?





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