鼻を摘んで目を閉じて…

　「なに、ビクついてんのよ、すみれ」

　「……希美」

　「あれぇ、ついに来たんだ。期待のニューフェイス。あっちの投資信託会社のファンドマネージャーをしてたのを引っ張ってきたんでしょ？」

　「へぇ、そうなんだぁ」




　バリ日本人顔の部長の横で冷たく口角だけを上げて、愛想笑いするその端正な横顔はいかにもクールで、どんな事態にも冷静沈着に対応するんだろうって、容易に想像させる。

　


　…昔から、年より大人びていて、ひねこびた子供だったけど。




　「そうなんだぁ、ってあんた知らなかったの？」

　「…知らないわよ。なんで、今日初出勤してきた新人のことなんて、あたしが知ってるわけ？」

　「もう何日も前から噂になってたじゃない。うちの『御曹司』がヘッドハンティングしてきた超有望株だって」

　「御曹司…って織崎さんが聞いたら、怒るわよ」