鼻を摘んで目を閉じて…
 「…山本君?」 

 「は、はい!すみません、課長、なんでもありませんっ」

 「じゃなくって、米州ユニット・ファイナンスグループにこの資料を届けてくれないか?」

 「えっ!?」




 課長が事務机の上のA4封筒をヒラヒラと振って、こちらへと差し出してくる。
 



 「忙しい?」

 「あ~、いや、その。…了解しました」




 忙しいか忙しくないかと言われれば、暇なわけじゃもちろんなかったけど、課長から頼まれたことを断るほどに切羽つまってるわけじゃないんだよね…ハァ。

 3つ離れた席の希美が、書類の影からこちらを覗いていて、ニンマリ。
 



 …何、期待してるのよ。このゴシップ好きめ!




 いくらあいつがいるグループって言ったって、あそこは一人一人の座席がパーティションに区切られてて、ただでさえ独自性が高いフロア。
 しかも、たしか課長クラスになると個室が与えられていたはずで、課に顔を出すって言ったって、接触するチャンスなんてあるはずもない。





 …いや、チャンスじゃないでしょ、あたしぃ。





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