君がくれたもの


腕時計を確認すると、

10:54
まだ少し時間はある。

聞きたいことがあるんだ。

「ねぇ、大輝。」

「ん?」

「もうバイクに乗せてくれないの?」

そう、家を出る前に言った大輝の言葉が不思議だったんだ。

すると、大輝は苦笑いをしてから

「俺さ、中学の頃すごく荒れてて、
ほら金髪時代?

先輩の運転でバイクに乗せてもらってて

そんとき急に飛び出してきた猫避けて、

先輩はバイクがぶつかる前になんとか飛び降りたんだけど、
俺は後ろだったし、
なにもできないで壁に激突。

だから、俺おでこに傷跡残ってるんだよ。

だから、前髪伸ばしてんの。」

といたずらに笑った大輝は、

前髪を上げると、

額には少しだけ大きめの古傷。

それほど目立つわけではないけど、
きっと誰の目にも入るくらい。


「こんな風に日菜子にはなってほしくないんだ。」

と優しく笑った大輝は私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。

無言になる私に、

「あ、帰り何時?」

といきなり聞いてきて、

「え?あ、確か今日は5時だよ。」

と言うと、

「オッケー。
帰り迎えに行くな。」

と笑って、

「遅れるから早く入れ!」

と私の背中を軽く押した。

「うん

わかった、行ってきます。」

「おう、行ってらっしゃい。」

なんだか、

くすぐったいな。

緩む頬を押さえてスタッフルームへと足を進めた。



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