『N』ー忍びで候うー
「そんなに強く目をつむって、、
痛みがひどければ、鎮痛剤を飲むか?」

『鎮痛剤』その一言で更に体温が急上昇した。

「ぇ、ぁ、いや、、っ痛!」

あまりの慌てっぷりだったのか、一花がぷっと吹き出した。

「お前はいつもそうだな。」前髪の奥、瞳がゆるんで見える。

どき、、


「え?」




「いつも笑わせてくれる。」かきあげた前髪の下、きれいな額とやわらかく微笑んだ瞳が現れた。

胸の奥がきゅんと音を立てる。



「まだ無理はするな。無理に顔を動かすとまた切れるぞ。」

「一、、」確かに話そうとするだけで口元にぴりぴり感がある。だからなるべくくちびるを動かさないように話してみる。

「いつもそうしてたらいいのに。」

「何のことだ?」

「ぅーー、、、」

顔が痛くて、話すよりもあたしはジェスチャーで一花に伝えようとした。
髪を上げたらいい、ということを。


「は、、ははは!!」

あたしのジェスチャーがそんなに可笑しかったのか、一花は思いきり吹き出した。
『そんなにおかしい??なにがそんなに??』

どうやら、一花の笑いのボタンがいつもより入りやすくなってるようみたいだった。
『痛いのに、頑張って伝えようとしてるだけなのに。』

そう思うと、思わず鼻の穴が膨らんでしまう。
「痛っ、、」
それすら痛くて悶絶。

すると一花は更に肩を揺らして笑った。

「今は休んで、早く治せ。余計なことをしてると顔に傷が残るぞ。早く元気になれ。」

ふわっと掛け布団を肩まで引き上げてくれると、一花は立ち上がった。
あたしは咄嗟に一花の手を掴んでいた。
「行かないで、、」顔が熱くなる。


「皿とフォークをもってくる。」

一花がベッドサイドの紙袋を持ち上げて見せた。
「頭首からお前に差し入れらしい。少し食べないか?」

それはあたしの好きな桃のコンポートだった。頷くと「すぐ戻る。」一花はそう言って部屋から出て行った。





すーっ、、、


『やっぱりこの匂い、、』


「お日さま」の匂いがしていた。


「痛、、たぁ、、」
ぴりっと頬が引き攣った。

『そういえば、、あの時もこの匂いに包まれて
、、』
七花はハッとした。


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