『N』ー忍びで候うー
階段を降りていこうとすると、次郎と郷太が階段の下に見えた。

「楽しそうな笑い声だったじゃん、一。」
次郎が言った。

「その呼び方はやめろ。もうガキじゃない。」

「ただの弟子にしては、随分、心配の仕方がすごいんじゃない?妬いてる奴もいるくらいだぜ?」
郷太がすいっと顔をそらした。

「なんだそれは?」
「なんだろうね。
ねぇ、起きたんなら僕も七花に会いに行っていいよね?」


「弟子、、いや、あれはーーー」

一花はさきほどの七花の顔を思い出していた。

「あれは、まるでゴリラだな。」

そう言うと、くっと口元を押さえて笑った。

「ゴリラ?七花が?」解せない表情の2人を前に一花は涙を拭った。
『涙が出るほど可笑しいなんて、いつぶりだろう?』

「なんでもない。郷太、ちょうどいい。来るならフォークと皿を頼む。」
「わかった。後でね。今は七花のところに、」
「今だ。さっきの差し入れを七花が食べるためだからな。頼んだぞ。」
そういうと一花はあっさり階段を登って行ってしまった。


「ぇ〜、それ、一花が取りに来たんじゃないの?!」
郷太は次郎を恨めしげに見つめた。
「次郎、、」

「おいおい、俺か?」

「ちぇっ、、」
郷太は頬を膨らませキッチンに向かっていった。


次郎は2階を見上げた。
『一があんなふうに笑うなんてな。
、、ぉっと。』

緩んでしまう口元を、焼きもちを妬いてるらしい郷太には見せないでおこうと思った。
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