『N』ー忍びで候うー
「あ、、これね。」
苦笑で応えた。
前の携帯は拉致された時に壊され、手元には帰ってこなかった。その代わりにおばあちゃまからこれが届いたのだった。


あたしはそれからまた、授業に追われるいつもの毎日が始まっていた。


そうしていると、あの日々がまるで夢だったみたいに遠く感じてしまう。

春休みのある日から突然始まった、
修行やあの山での日々、彼らとの出会い。

たったひと月ほどの出来事のはずなのに、
ふと、懐かしく感じるときがある。

あたしは今もあの鎮痛剤をカバンに入れたままにしていた。

気付いたら、あたしは彼らの連絡先も知らなかった。誰の携帯も。

Nにはあれ以来行っていない。
おじいちゃまから『忍者の任務を解く』と言われてから、、少し寂しい気もしたけど、おじいちゃまも戻ったことだし、あたしには忍者でいなきゃいけない理由はもうなかった。
それに、任務の足手まといになるだろう確信はあった。


みんな、どうしてるだろう、、

おじいちゃまの元、修行の日々だろうか?

どこかで偶然にでも、彼らに会えたりしないだろうか?

一花は、、?



『だめだめだめ、、!』

きゅっとペンを握り直した。
読みかけの栄養学の本に目を落とす。

あたしは今ここでやることがある。
『そうよ、今がんばんなきゃっ。』

夜桜の中、一花が励ましてくれたことを思い出していた。





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