『N』ー忍びで候うー
「本当に美味しいですね。これは、、人気になりそうですね、、」
六車の少し困惑したような顔にあたしは気がつかなかった。

「お前の場所はここだったんだな。」
一花の言葉に何処かがちくっとした。

こくん、とコーヒーを口にする。
今日のコーヒーは苦すぎて、ミルクを足しておけばよかったと後悔した。

「次郎はいつ頃来るんですか?」
一花は店内の時計を見た。
「ああ、あと30分で着くはずだ。」

ガタッ、三田が大きな音を立ててスツールから降りた。
「どうかしたんですか?」
問い掛けた七花に「あ、いや、ちょっと、、」と店の奥を指差し慌てて駆け込んでいく。
「彼は根っからの研究者ですからね、常に研究しか頭に無くてですね、、極限まで忘れている時が多いんです。」
「何を?」
「トイレだ。」
「あ、、」
「気にするな。いつもああなんだ。」

どんな顔をしていいのか困っていると、
「そういえば、、」六車が『山に運んでほしいものがある』と一花と二階に上がってくるという。
一花は立ち上がり際、ミルクのポットを掴むと七花のほうに寄せた。

「苦いのか?あまり飲めないようだから。
、、それとも体調がよくないのか?」
あたしはぶんぶん首を横に振った。
「ありがとう。ちょっと苦かったみたい。」
一花にはなんでもお見通しみたい。苦笑いで答えた。




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