『N』ー忍びで候うー
15.弟子のような・・
「俺を呼べ。」思わずそう言いそうになって、口元に手をやった。


何だ、このいらいらした気持ちは。

俺は目を見張った。

目の前の七花はまっすぐな瞳で俺に頷き返した。



俺の思考が瞬時に言葉を変換していた。
『俺』ではなく、

「今度は何かあれば、、助けを呼べ。」と。




落ち着けーーー





カラン、コロン・・

外に走り出していくのを見送る。





「一花。なんか、今笑ってた?」

「笑ってたか?ふ、、お前の、投げ飛ばされたところを思い出していただけだ。」
「なんだよ、それー。」

次郎が軽くじゃれてくる。


ーーーー、
弟子のようなものかもしれない。


七花につきっきりになっていた特訓の時間が、弟子のように感じさせるのかもしれない。たった数日でしかなかったが、それでもその成長が嬉しいのと、未熟で危なっかしいのが俺をいらだたせるのかもしれない。だから「俺を呼べ。」と思わず口をついて出そうなほどに。。


なんだ、そんなことか。

そう思うと納得がいった。
靄が晴れたように安堵が広がる。軽く笑みが漏れていたらしい。




ーーーー、
次郎と並んでテーブルに着いた。


顔を上げると六車が俺を見ていた。

『七花には言っていませんよ。あなたが口移しで解熱剤を飲ませたことは。』
二階に上がった時、六車が言っていたことが今になって思い出された。
『別にどっちでもいいんじゃないか。言おうが言わまいが。』俺はそう返した。


あの状況であれば、倒れていたのが誰であれ、仲間であれば・・・


俺は同じことをしたはずだった。




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