『N』ー忍びで候うー
郷太は極太のラーメンをすすっていた。

湯気の向こうに額まで汗いっぱいの頑固そうな親父がせわしなく麺を茹でては客に出していく。
ラーメンをすする音、麺の水をきる音、注文の声。店内はざわついている。

隣に人の来る気配がした。

「味噌ラーメンひとつ。背油少な目で。」
「あいよ!」

スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを少し緩めた隣の男がパチンと箸を割った。
紙ナプキンを置いてその上に箸を載せる。紙ナプキンがすっとこちら側へ押されてきた。

郷太は口元をぬぐうため紙ナプキンをとるふりをして、そっとそれを手にした。

くしゃっと手の中に丸めこむ。
「あ~、うまかった。ごちそうさまっ。」

郷太はひょいっと席を降りた。

「ありがとうございました~。」



「味噌ラーメンお待ちっ。」
背後で声が聞こえた。





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