人魚花
夢幻の光
──目を開けると、そこは透明な水で満たされた、なつかしい空間だった。
あたたかい水、やわらかい陽射し、穏やかな流れ、そして、優しい調べが満ちた、この、なつかしい雰囲気。
(え……?)
一瞬呆然と佇んでから、<彼女>はきょろきょろと辺りを見渡した。
──違う、こんなのおかしい。あるはずがない。
『……あら、ようやく起きたの?随分お寝坊だったわね』
その時、<彼女>のすぐそばから、これまた懐かしい、どこかで確実に聞いたことのある温かい声が聴こえてきた。
つられて顔を上げるとそこにいたのは、いつも<彼女>に唄を教えてくれる、一番近い姉で。
『もうこんなに陽が高く昇ってるわよ。あなたも早く、花を咲かせなきゃ』
その言葉にふっと、自分の先端で控え目に存在を主張する、小さな蕾の存在を感じて。
「──そうね、わかったわ。早く咲かせなきゃ」
とりあえず<彼女>は、思考を中断して花を咲かせることにした。
(……なんだか、長い間眠っていた気がするわ)
鮮やかに色付いて、ぱっと膨らむ花弁の様子を感じながら、<彼女>は内心で首を傾げる。
(……懐かしい)
その感想を抱きながら、そのことに自分自身で驚く。
──懐かしい?ううん、私はずっとここで育ってきたはずよ。
だから、懐かしい、だなんて、そんなことを思うはずもないのに。
『……どうしたの?難しい顔をして』
不意に思考が中断される。見ると、姉がすぐそばで、<彼女>に笑いかけていた。
……考え込んでしまったようだ。
「……なんでもないわ。大丈夫よ」
(やっぱり、眠りすぎたのね……)
なんでも良いから、と、そう結論付けて片付けることにして、<彼女>は姉に頷いて見せた。
けれど。
──さっきまで大きな違和感があったはずなんだけど……なんだったんだっけ?
その疑問だけは、どうにも頭から拭い去れず。
思い出せない。あんなに、あり得ないと叫び出したい程の違和感だったはずなのに。
(なんだったんだけ──?)
そんなことを思っていると、ぐらり。
<彼女>は突然、視界が暗転するほどの目眩に襲われた。