人魚花


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「今日の月は赤いんだね」

次の日も、彼はやって来た。

今日はなんとなく待ち構えていたので、人間の気配がしても歌を歌わずに待っていた。予想通り、昨日の通り、人魚は月が出始める時刻、<彼女>がいつも人間を捕まえるにやってきた。

「また来たのね」

冷たい言葉を返す。けれどもう慣れたように、ロイレイはへらりと微笑んだ。

昨日、彼に主導権を握られるまま、いくつかのことを話した。と言っても、内容は海の中や星の話といったとりとめのないことばかりで、もっぱら話しているのは彼だけだったのだけれど。

さすがは広い海原を泳ぎ回る人魚で、その話題は多岐にわたり、どれも新しく知ることばかりだった。

──そんなことも、彼には言ってないのだけれど。

「そりゃね、君と話したいから」

そしてロイレイは今日も、そんなことを言う。

「……、変な人魚、ね」

そんな風に、純粋に好意を向けられるような視線は対処に困る。思わず言葉に詰まってしまい、反応に遅れた。

ロイレイは案の定気を悪くした様子もなく、首をかしげながら尻ヒレを揺らす。

「変な人魚かなあ?うーん、もしかしたらそうなのかもね」

そしてまた、<彼女>の方ににこりと笑いかけるのである。

「変でもいいや。だって、こうやって話してるの、楽しいから」

「……あなたが楽しくても、私は歌わないわよ」

「じゃあ歌ってくれるまで通わなきゃな」
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