人魚花
「──っ、ちょっと!何する気!?」
思わず声を荒らげる。ロイレイはびっくりしたように動きを止めて、それから我に返ったように笑みを浮かべた。
「あ、ごめんごめん。びっくりさせちゃったね。ただね、つい、嬉しくって」
「……」
余りに屈託なくそう言うけれど、<彼女>には聞いている余裕なんてなかった。何よりも、<彼女>は自分自身にひどく動揺していた。
(なんで?私はこの人魚を拒まなきゃいけないはず……なんで、こんな、慰めるみたいなことして……!?)
冷静になればなるほど、先程までの自分の発言への後悔が募る。
どうしてしまったのだろうか、自分は。
自分で、自分のことがわからなかった。
(私には、仲間を蘇らせることしか残ってないはずだったのに、どうしてあんな……)
──あんな、昔に戻ったように、沢山話なんてものをして。
どんなに焦っても、発した言葉は取り消せはしない。
一瞬でも『目的』のことを忘れて、彼との会話に興じてしまった自分がいることは、紛れもない事実だ。
それが、<彼女>をこれ以上なく打ちのめさせた。
「……ねえ、僕、君と友達になりたい」
彼女が呆然としているのに気が付かないロイレイが、口を開く。
「え……?」
<彼女>は返事をするのがやっとだ。意味まで、ちゃんと解することができない。なんと言った?友達になりたい、友、達?
「君と。友達になりたい。だめかな」
ロイレイはそう繰り返す。そう告げる金色は、まっすぐまっすぐ、<彼女>に突き刺さった。
何拍か遅れて、ようやく意味を解す。解して、しまった。
(……"友達"……)
その言葉を、少なからず嬉しいと思ってしまう自分がいることが、何よりも<彼女>にはショックで。
「……私はなりたくないわ」
先ほどとは打って変わって、<彼女>は冷たい言葉を吐き出す。
そう吐き出すことしか、出来なかった。
「友達になんて、なれないわ……」