あの空の君へ
第四章
♠兄弟~過去~
香side
「俺さ、結婚しようと思う。結衣と。」
「お、おう。よかったな」
「ありがとう。」
「ちゃんと守ってやれよ。女の子は俺らが思っているより全然弱いんだからな。」
「わかってるよ。」
「なら、いいけど。ホントにおめでとう。」
「うん。じゃあ俺、結衣と約束あるから。行くわ。」
「おう。」
そう言って俺の弟、高橋新が出掛けた。
俺はそのまま、自分の部屋に戻り閉めたドアにもたれ掛かりながら崩れるように座った。
「結衣ちゃん…。」
俺はうつむき涙を流した。
俺は結衣ちゃんが好きだった。
初めて会ったのは新が結衣ちゃんを家に連れてきたときだった。
一瞬すれ違って会釈しただけだけど、その奥ゆかしさに惚れたんだ。
でも、相手は弟の恋人。
しかも初めてアイツが本気になった相手。
俺はその運命をすごく憎んだ。
あの子がまだ誰のものでもなくて、
俺が新より先に見つけてたら絶対あの子と恋をしてた。
例え、あの子が俺の子とを好きじゃなくても好きにさせてた。
俺は彼女がすごく好きだった。
俺の子の気持ちは誰にも言わなかった。
いや、言えなかったんだ。
怖かったから。
新との間に傷が入ったら、と不安で。
俺はずっと内緒にしてきた。…ずっと。
結婚式には参加しなかった。
したくなかった。
でも、ちょうど結婚式の日に会社で大きな仕事があったからそれを理由に行かなかった。
新は悲しんでいたけどな。
結衣ちゃんも「来て下さい…。」と照れながら招待状をくれた。
その仕草はとても可愛くて、それに少し頬を染めたのも重なっていたから余計可愛く見えたんだろう。
その時もし、あの子1人だったら俺はきっと腕を掴んで新から取ろうとしてしまっただろう。
でも、その隣にはちゃんと新がいて…。
家に来ても繋がれている新と結衣ちゃんの手。
結衣ちゃんが困っている時に助けるのはいつも新で。
でもこれが普通なんだと思うとまた胸が苦しくなった。
俺は、「うん、行けたら行くわ。」と何も気にしていないかのように、
胸の苦しみがバレないように普通を装って返事をした。
ある日、新がまた結衣ちゃんを家に連れてきた時
俺はやってしまった。
新の部屋と俺の部屋は隣だった。
俺は自分の部屋で仕事をしていると、
新が入ってきた。
「香、俺さちょっとコンビニ行ってくるから少しの間でいいから結衣の事気にかけてやってくれないか?外寒いから結衣連れてくのかわいそうでさ。」
「あぁ、いいよ。」
「気にかけるって言ってもなんかあったら、結衣の方から聞きに来ると思うから。」
「わかった。」
「んじゃ、行ってくるわ。」
新が出掛けてから10分がたった。
俺は家の中に結衣ちゃんと2人だった。
少し気になり壁に耳を当て澄ましてみた。
どうせ何も聞こえないのに。
俺は気になって仕方なかったから、
新の部屋に入ることにした。
ドアの前で一度深呼吸をし、
心を落ち着かせてからノックした。
コンコンッ
「はい。」
俺の好きな人の声が返ってきた。
「入ってもいい?」
返事をする前に結衣ちゃんはドアを開けてくれた。
俺達はベッドに座った。
俺は嬉しくてたまらなかった。
例えこの子が今俺のものじゃなくても、
隣にいるだけですごく、すごく幸せだった。
「なんか、用あったら何でも言ってね。」
「ありがとうございます。お兄さん。」
お兄さん…か。
「いいえ、あ。結衣ちゃん!」
俺が名前を呼ぶと肩をビクッとさせて返事をした。
「は、はい。」
「そんなに固くならないでよ。話しにくいしさ。ね?」
「あ、はい…。」
「いきなりなんだけど、結衣ちゃんは新のどこを好きになったの?」
俺は思いきって聞いてみた。
共通の話題がこれしか思い当たらなくて。
「新くんは、とても優しくて。でもそれを表に出そうとはしなくて、今も私には「めんどくさいからついて来なくていい」って冷たく言っててもさっきのお兄さんとの話で「寒いからかわいそうだ」って言ってたの聞こえちゃって。そうやって、実は私の事考えていてくれたり、どんなに忙しくても、誕生日とか記念日には必ず電話とか会いに来てくれるんです。…。」
新の事を話している結衣ちゃんはすごく可愛くて、
頬をピンク色に染めて微笑みながら話してた。
それも見たことのないくらいの柔らかい笑顔だった。
俺はこの質問をしたことを激しく後悔した。
俺は知らないうちにイライラしてた。
次の瞬間俺は結衣ちゃんを押し倒してしまった。
結衣ちゃんの両腕を俺は片方ずつ押さえた。
しかも、強く、強く。
「やっ…だ!い…やっ…だ!」
俺は抵抗する結衣ちゃんを無視し、
無理やり結衣ちゃんの首筋にキスをした。
そのまま唇を這わせ鎖骨辺りまで来たとき俺はふと、我に返る。
結衣ちゃんは泣いていた。
俺は押さえていた結衣ちゃんの腕を離した。
「俺…。ごめん。…大丈夫?」
結衣ちゃんはすぐに体を起こした。
「大丈夫…です。」
その時、
「ただいまぁ。」
絶妙なタイミングで新が帰ってきた。
少しの沈黙があり、その沈黙を破ったのは新だった。
「なんだ、香。いたんだ。結衣が呼んだの?」
結衣ちゃんの服は乱れたままだった。
俺はすべてを白状し謝ろうと思い、
新の前に立った。
「なに?香。」
「新、ごめん。俺…結衣ちゃ…。」
俺が話終える前に結衣ちゃんが言葉を発した。
「うん、そうだよ。私が呼んだの。ですよね、お兄さん。」
「あ、あぁ」
結衣ちゃんは俺のために嘘をついてくれた。
その姿はさっきまで乱れていた服を元通りにし、
泣いていたことなんてわからないくらい
綺麗さっぱりした顔をしていた。
「そうだったんだ。んで、何があったの?」
「ううん、もう大丈夫。」
「そう?じゃあ、いっか。あ、そうだ。香、何?結衣がどうかした?ごめんって。」
「ううん、何でもない。」
「なんだよ、変なの。」
「じゃあ、俺出ていくから。」
俺はそういって新の部屋を後にした。
俺はしばらく新の部屋を背にして立ち尽くしていた。
俺は最低だ。
一番泣かせたくない人を泣かせた。
手を出してしまった。
弟の恋人に…。
そんなことを考えていると部屋の中から2人の会話が聞こえてきた。
「うわっ!どうした結衣?いきなり抱きついて。」
声をかけても返事しない結衣ちゃんに新はもう一度声をかけた。
今度はすごく心配そうな声だった。
香side
「俺さ、結婚しようと思う。結衣と。」
「お、おう。よかったな」
「ありがとう。」
「ちゃんと守ってやれよ。女の子は俺らが思っているより全然弱いんだからな。」
「わかってるよ。」
「なら、いいけど。ホントにおめでとう。」
「うん。じゃあ俺、結衣と約束あるから。行くわ。」
「おう。」
そう言って俺の弟、高橋新が出掛けた。
俺はそのまま、自分の部屋に戻り閉めたドアにもたれ掛かりながら崩れるように座った。
「結衣ちゃん…。」
俺はうつむき涙を流した。
俺は結衣ちゃんが好きだった。
初めて会ったのは新が結衣ちゃんを家に連れてきたときだった。
一瞬すれ違って会釈しただけだけど、その奥ゆかしさに惚れたんだ。
でも、相手は弟の恋人。
しかも初めてアイツが本気になった相手。
俺はその運命をすごく憎んだ。
あの子がまだ誰のものでもなくて、
俺が新より先に見つけてたら絶対あの子と恋をしてた。
例え、あの子が俺の子とを好きじゃなくても好きにさせてた。
俺は彼女がすごく好きだった。
俺の子の気持ちは誰にも言わなかった。
いや、言えなかったんだ。
怖かったから。
新との間に傷が入ったら、と不安で。
俺はずっと内緒にしてきた。…ずっと。
結婚式には参加しなかった。
したくなかった。
でも、ちょうど結婚式の日に会社で大きな仕事があったからそれを理由に行かなかった。
新は悲しんでいたけどな。
結衣ちゃんも「来て下さい…。」と照れながら招待状をくれた。
その仕草はとても可愛くて、それに少し頬を染めたのも重なっていたから余計可愛く見えたんだろう。
その時もし、あの子1人だったら俺はきっと腕を掴んで新から取ろうとしてしまっただろう。
でも、その隣にはちゃんと新がいて…。
家に来ても繋がれている新と結衣ちゃんの手。
結衣ちゃんが困っている時に助けるのはいつも新で。
でもこれが普通なんだと思うとまた胸が苦しくなった。
俺は、「うん、行けたら行くわ。」と何も気にしていないかのように、
胸の苦しみがバレないように普通を装って返事をした。
ある日、新がまた結衣ちゃんを家に連れてきた時
俺はやってしまった。
新の部屋と俺の部屋は隣だった。
俺は自分の部屋で仕事をしていると、
新が入ってきた。
「香、俺さちょっとコンビニ行ってくるから少しの間でいいから結衣の事気にかけてやってくれないか?外寒いから結衣連れてくのかわいそうでさ。」
「あぁ、いいよ。」
「気にかけるって言ってもなんかあったら、結衣の方から聞きに来ると思うから。」
「わかった。」
「んじゃ、行ってくるわ。」
新が出掛けてから10分がたった。
俺は家の中に結衣ちゃんと2人だった。
少し気になり壁に耳を当て澄ましてみた。
どうせ何も聞こえないのに。
俺は気になって仕方なかったから、
新の部屋に入ることにした。
ドアの前で一度深呼吸をし、
心を落ち着かせてからノックした。
コンコンッ
「はい。」
俺の好きな人の声が返ってきた。
「入ってもいい?」
返事をする前に結衣ちゃんはドアを開けてくれた。
俺達はベッドに座った。
俺は嬉しくてたまらなかった。
例えこの子が今俺のものじゃなくても、
隣にいるだけですごく、すごく幸せだった。
「なんか、用あったら何でも言ってね。」
「ありがとうございます。お兄さん。」
お兄さん…か。
「いいえ、あ。結衣ちゃん!」
俺が名前を呼ぶと肩をビクッとさせて返事をした。
「は、はい。」
「そんなに固くならないでよ。話しにくいしさ。ね?」
「あ、はい…。」
「いきなりなんだけど、結衣ちゃんは新のどこを好きになったの?」
俺は思いきって聞いてみた。
共通の話題がこれしか思い当たらなくて。
「新くんは、とても優しくて。でもそれを表に出そうとはしなくて、今も私には「めんどくさいからついて来なくていい」って冷たく言っててもさっきのお兄さんとの話で「寒いからかわいそうだ」って言ってたの聞こえちゃって。そうやって、実は私の事考えていてくれたり、どんなに忙しくても、誕生日とか記念日には必ず電話とか会いに来てくれるんです。…。」
新の事を話している結衣ちゃんはすごく可愛くて、
頬をピンク色に染めて微笑みながら話してた。
それも見たことのないくらいの柔らかい笑顔だった。
俺はこの質問をしたことを激しく後悔した。
俺は知らないうちにイライラしてた。
次の瞬間俺は結衣ちゃんを押し倒してしまった。
結衣ちゃんの両腕を俺は片方ずつ押さえた。
しかも、強く、強く。
「やっ…だ!い…やっ…だ!」
俺は抵抗する結衣ちゃんを無視し、
無理やり結衣ちゃんの首筋にキスをした。
そのまま唇を這わせ鎖骨辺りまで来たとき俺はふと、我に返る。
結衣ちゃんは泣いていた。
俺は押さえていた結衣ちゃんの腕を離した。
「俺…。ごめん。…大丈夫?」
結衣ちゃんはすぐに体を起こした。
「大丈夫…です。」
その時、
「ただいまぁ。」
絶妙なタイミングで新が帰ってきた。
少しの沈黙があり、その沈黙を破ったのは新だった。
「なんだ、香。いたんだ。結衣が呼んだの?」
結衣ちゃんの服は乱れたままだった。
俺はすべてを白状し謝ろうと思い、
新の前に立った。
「なに?香。」
「新、ごめん。俺…結衣ちゃ…。」
俺が話終える前に結衣ちゃんが言葉を発した。
「うん、そうだよ。私が呼んだの。ですよね、お兄さん。」
「あ、あぁ」
結衣ちゃんは俺のために嘘をついてくれた。
その姿はさっきまで乱れていた服を元通りにし、
泣いていたことなんてわからないくらい
綺麗さっぱりした顔をしていた。
「そうだったんだ。んで、何があったの?」
「ううん、もう大丈夫。」
「そう?じゃあ、いっか。あ、そうだ。香、何?結衣がどうかした?ごめんって。」
「ううん、何でもない。」
「なんだよ、変なの。」
「じゃあ、俺出ていくから。」
俺はそういって新の部屋を後にした。
俺はしばらく新の部屋を背にして立ち尽くしていた。
俺は最低だ。
一番泣かせたくない人を泣かせた。
手を出してしまった。
弟の恋人に…。
そんなことを考えていると部屋の中から2人の会話が聞こえてきた。
「うわっ!どうした結衣?いきなり抱きついて。」
声をかけても返事しない結衣ちゃんに新はもう一度声をかけた。
今度はすごく心配そうな声だった。