あの空の君へ
第六章
♠幸せな朝
結衣side

「おはようございます。」
香さんが眠たそうに目を擦りながら台所で朝食を作っている私のもとへ来た。
少し下がったスエットのズボンからチラッと見えるパンツもボサボサの頭も可愛くて仕方ない。
「あぁ、おはよ。相変わらず朝が早いね、結衣は。」
「香さんが遅いんですよ。」
こんな会話をしながら微笑み会う私たち。
まるで、新婚生活みたい…。
「そういえばさ。結衣ってまだ俺に敬語だよね。付き合ってるんだし普通に喋ってくれて構わないんだけど…。てか、そうして欲しい。」
「付き合ってても上司です。私が復帰して職場に戻ったときに普通に喋っていたら他の女の子に白い眼で見られますし…。」
「白い眼?」
「あ、それは…。何でもないです!」
「俺さ、職場の奴ら全員に俺らの関係話そうと思って。」
「え!?それはダメですよ!」
「なんで?」
「しょ、しょ、職場では上司と部下ですから…。」
「なんで、そんなに慌てる?結衣ちゃん。」
香さんは意地悪げに口角を上げて聞いてきた。
「何でもありませんから!じゃあ、私琉さんを起こしてきますね!」
私はその場から離れようとする。
「どこ行くのかな?結衣ちゃん?まだ話の途中なんだけど…。」
香さんは私の手を掴み自分の体へと引き付ける。
きっと私は香さんに後ろから抱き締められている。
心臓がうるさい…。
「慌てた理由、聞かせてもらおうか。じゃないと離さないからね?早く起こさないと琉が遅刻するよ?」
「あの、えっと、その…。私、香さんの名前呼ぶだけでドキドキして。それなのに普通に話すなんてしたら仕事が出来なくて…。」
「結衣、お前そんなこと…。」
「変ですよね。私。」
「変なんかじゃないよ。俺今すっげぇ嬉しい。そんなこと思っててくれてたなんて。」
香さんは私の首筋に優しくキスをした。
「あっ…。」
自然と漏れてしまう声。
香さんは私を包んでいた手を離し、私をくるっと回転させ向き合う形になった。
香さんは私の目を見てこう言った。
「でもさ、やっぱり俺会社で恋人として仕事したいんだ。周りの男が結衣に付きまとってるの見るとイラつくんだよ。」
「私、ちゃんと仕事したいです。今までたくさん香さんにお世話になってきたし、子供のためにも…。お願いします、香さん。」
「んー、仕方ないな。そこまで言われるとね…。」
「ありがとうございます!」
私は満面の笑みを見せた。
「じゃあ、私琉さん起こしてきますね。」
「うん。」
「先に朝ごはん食べてて下さい。仕事もあるので。」
「オッケイ」
私は琉さんの部屋がある2階へ上がった。
「…琉さーん。起こしに来ましたよー。」
私は琉さんの寝ているベッドに近付いた。
「琉さん、朝ですよ。」
「…んー。律…。」
律?誰だろう?聞いたことがあるような…。
まぁ、今はいいや。
「琉さーん、起きてくださーい。」
「ん…。んー、結衣ちゃん?おはよ。」
「朝ごはん出来てるんで食べてください。香さんは先に食べてます。」
「はいはーい。はぁ~…。」
琉さんは大きなあくびをしながら部屋を出ていった。
私をその後をついて出た。
1階へ戻ると香さんは着替え終わって朝ごはんを食べていた。

「結衣。遅い。琉、なにもしてないだろうな」
「えー。どーだろー」
琉さんは香さんの事をバカにしたように言った。
「琉さん!誤解を招くようなこと言わないで下さい!」
私は頬が熱くなるのを感じながら精一杯の声で言った。
「ごめん、ごめん。なんか可愛くなっちゃって…。」
また、バカにしたように…。
でも、この言葉に反応しないわけがない人がただ1人。
私はゆっくりその人に目線を移した。
やっぱり、今にでも右手に持っている箸が折れそう…。
「おい、琉。いくら兄弟だからって許さねぇぞ…。」
大きな声をたてず静かに言う香さんの殺気はヤバイ。
押し潰されそうになる。
「結衣、ホントに何もないんだな?」
「ありません!」
「そっか、じゃあ俺そろそろ行くわ。」
「あ、じゃあお見送りします。」
私は香さんの鞄を持ち、後ろをついていく。
靴を履いた香さんに笑顔で鞄を渡す。
「お前はホントに可愛いな…。」
「どうしたんですか?いきなり。」
「いや、なんでもない。」
「そうですか。」
「あ、そうだ。明日から仕事復帰できるんだよな?」
「はい。」
「そんなに無理しなくていいんだぞ?」
香さんは心配そうな顔をして私に聞く。
「大丈夫です。」
「そっか、わかった。社長に伝えとく。」
「はい!お願いします。」
「じゃあ、いってきます。」
「いってらっしゃい!」
私は香さんに手を振った。
香さんに可愛いって言われちゃった。
照れちゃうな…。
琉さんに言われるより嬉しいな。
琉さんには悪いけど…。
私は1人でにやついていた。
「ゆいちゃーん!」
「はーい」
私は琉さんに呼ばれ、ダイニングへ走っていった。
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