あの空の君へ
♠諦めと幸せ
結衣side

プルルル…
ん?こんな時間に電話?誰だろう。
時計を見ると、朝の6時。
「…もしもし」
「…結衣か?」
「香さん!」
「昨日はごめん。」
「いえ、私が悪いので。あの時の話なんですけど。」
「琉から全部聞いたよ。」
「そうでしたか…。」
「俺の早とちりだ。」
「ごめんなさい。」
「…」
「香さん?」
「…結衣、俺たち距離をおこう。」
「…え。」
私は香さんの言葉を信じられなかった。
「あの!私謝りますから!もう無いようにしますから!」
「違うんだ。…1人になりたいだけなんだ。心配すんな。じゃあ、また。」
「香さん!」
プチッ。ツー ツー ツー
不通知音だけが私のなかに鳴り響く。
香さんと距離をおく。
悲しくて涙が止まらなかった。
私はその日仕事が休みだったので凛の元へ行った。
ピンポーン
「はーい、結衣!久しぶり。…どうした?」
凛は早くも私の異変に気づいた。
「とりあえず、中に入りな。」

「美羽と空元気だよ。今颯太と買い物行ってる。」
「そっか。ごめんね。なかなか引き取れなくて。」
「こっちは全然いいから。」
私は凛に昨日あったことをすべて話した。
「そういうことね。てことは、香さんに婚約者が居るって気付いてること香さんは知らないの?」
「うん、だって相談にのってもらってただけって琉さん伝えてたらしいから。」
「そっかぁ。」
「…このまま、別れようって言われたらどうしよう。」
「大丈夫だよ、特に根拠はないけど。高橋さんいい人だし。」
「そう、かな…。」
「話してくれてありがとう。」
「凛…。」
凛、だいすき。

私は誰も居ない家にただ1人。
なぜか新の部屋に足を運んでいた。
「私、最低だね。香さんと喧嘩したからって新に頼るなんて…。」
都合のいい女だよね。
新の部屋はその時のままになっていて新の匂いがした。
新のベッドに横になった私はいつの間にか寝てしまった。
「…ん。」
朝…。
日差しが眩しい。
今日は仕事がある。憂鬱だな。
香さんと顔を合わせて普通で居られる気がしない。

「おはようございます。」
「おはよー。」「おはよう。」
いろんな人な挨拶をした。
そして、香さんにも
「お、おはようございます…。」
「おはよ。」
香さんは大人ですね。
仕事とプライベート割りきれちゃうんですね。
でも、少し寂しい気がする。
そんな程度なのかなって。私ばかりテンパって、バカみたい…。
胸が苦しくなった。

そんな日が2ヶ月続いた。
「もしもし。」
「…結衣?」
「香さん…?」
「あぁ、今ちょっといいか?」
久しぶりに聞いた電話越しの香さんの声。
いつもより低く聞こえる。
「お久しぶりです。…私、仕事のミスありましたか?」
昔、私と香さんが付き合ってない頃こうしてミスがあったことを電話で伝えてくれる。
だけど、「明日、朝一で直します!」って言う頃にはいつも香さんが直してくれた。
「いや、ミスはないよ。」
「じゃあ?」
「結衣、俺さ…。」
別れる。勝手に頭のなかで考えてしまう。
嫌だ…!
「はい?」
いつも通りに心の中の混乱なんてまるで無いように答えた。
「やっぱり、お前が必要なんだ。」
…え?
「別れなくてもいいんですか?」
「別れる?そんなの一度も考えてねぇよ。」
「本当ですか?」
「ここで嘘つく理由ないだろ。バカだな。」
「香さん…。」
「待った!今泣くなよ!…俺が居るとこで泣け。」
「…はい。」
私は出そうになった涙をグッと押さえた。
「…俺さ、ちょっと問題起きちゃって」
問題…。きっと律さんのことですよね。
貴方のそうやって私に心配かけようとしないところが時に私を不安にさせます。
まだ、私にその行動は必要ですか?
「律さんのことですよね?」
「!?知ってたのか!?」
「はい。」
「なんだ、じゃあちゃんと話せばよかったな。」
「話?」
「あぁ。…婚約の話はなくなった。」
「本当ですか?」
嬉しい。香さんと一緒に居られる。
これからも。
「うん。まぁ、詳しいことは家帰ってから話す。」
「はい、ご飯作って待ってます。」
「…結衣?」
「なんですか?」
「愛してる。」
香さん…。寂しかったのは香さんだけじゃないですよ。
「…私も、愛してます。」
「…じゃあ」
プチッ。ツー ツー ツー
私はすぐにご飯を作り始めた。
すると、あることが頭をよぎる。
新との苦い思い出。
新が死んだのも同じような状況。
『香さんも帰ってこなくなる!』
外はいつの間にか降っていた大雨。
いつもはまだ明るい時間だけど雨のせいで視界が悪くなってる。
薄暗くて車だと分かりにくい。
香さんは私と距離をおいてから気を使って車で出勤していた。
新みたいに帰ってこなくなっちゃったらどうしよう…。
私は不安に駆られ外の門で待つことにした。傘もささず。
ケータイだけを握りしめ。
すると香さんの車が来た。
「結衣!どうしたんだよ。」
香さんが車から降りてきた。
「よかったぁ…。私、新みたいに帰ってこなかったらどうしようって考えちゃっていてもたってもいられなくて。」
「はは。大丈夫だよ。俺はアイツみたいに急にいなくなったりしないから。」
「本当ですか?」
「あぁ、さぁ。中に入ろう。俺が拭いてやるから。」
私は首をコクンとさせ香さんに肩を抱かれ中へ入った。

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