たった一度きりの青春は盛りだくさん
この隙に私は退散しようかな。
そう思って体の向きを変えたら、慌てたように達川くんが立ち上がった。
「ごめんね、佐藤さん。これ、お礼」
軽く投げられたそれをなんとかキャッチすると、ピンク色の飴玉だった。
「ありがたくもらっとくね。ありがとう」
私もお礼を言って、今度こそ音楽室に向かう。
でも、教科書を渡すだけのはずが思ったより時間かかっちゃったな。
少しだけ急がなきゃ。
―――ガラッ
「あー、やっと来た」
「佐藤、何しよったん」
勢いよく音楽室のドアを開けると、もう昼食を食べ始めてるみんなが口々に言う。
私以外の9人はもうみんな揃ってる。
「ごめんごめん!
ちょっとおつかい頼まれて」
「おつかい?
もしかしてその飴はお礼やったり」
3人の男子の内の1人、森くんは私がお弁当箱と一緒に机の上に置いた飴玉を指さした。
さすが、鋭い観察眼の持ち主。
「うん、そんなとこ」
「あ、これ知っとる!
これね、桜の形しとる飴ですごい美味しいんよ」