たった一度きりの青春は盛りだくさん



高校生になって吹部に入部してから初めて、森くんの背中を追いかけずに見送った。


今日は、みんなと一緒に花火を見に行く日。


『部活終わったら正門に来てね』って言われてたっけ。


あまり行く気はしないけど、そろそろ行くかな。


「笑子ちゃん、また明日ね」


「うん!花火楽しんでねー!」


元気に見送ってくれる笑子ちゃんに手を振って、少しゆっくり歩きながら正門に向かう。


「奈々、お疲れ!」


後ろから肩を叩かれて振り返ると、パーカッションの先輩だった。


「先輩、お疲れ様です」


「珍しいね、奈々が森と帰り一緒やないん」


「あ、はい。今日は花火見に行くことになってて」


私が言うと、先輩は目を輝かせた。


「私も行くよ。

でも、奈々の家って遠かったよね?

帰り大丈夫なん?」


そう、私の家は部員の中で一番遠い。


だから誰もが私の帰りの電車のことを考えてくれるんだよね。


「帰りは幼なじみと一緒に帰るので大丈夫です」


「そっか、良かった。

明日寝坊しられんよ?

じゃあ、また明日ね!

見かけたら声かけてー」



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