正義の味方に愛された魔女4
「なんだろうな…あんた、男に生まれたら良かったんじゃないか?
もっと支店増やして会社組織にしてトップ張れただろう?」
「えー?嫌ですよそんなの!
それじゃ母親業も楽しめず再婚もできなかったかもしれないですよ?
息子がいま会社興すところだから、そっちは次世代にお任せでいいんです」
「そうか、親になって子を育てるのと再婚は大事だったか」
「一番大事でしたよ。
あなた……あら、お名前を聞いてませんが、ご家族は?」
「親が誰かも判らんのだ、家族の良さも知らんわ。
施設長が名付け親で、藤波辰彦。
とりあえずこれが戸籍上の名前だ」
色々ありましたか…そうだよね、潜り抜けてきましたか。
それでもまだ、この人は穏やかな老後を望まないのね…。
「辰彦さんね、私は百合」
「ふあっはっは。いきなりファーストネームで来たか……。
百合ちゃんな、あんた面白いわ」
「面白くないですよー」
パンッと肩を叩く。これが精一杯だった。
この人、過激派トップに思えない。
良くあるものね、『えー?あの人が?そんな事するような人には見えませんでした』って奴。
あー、私じゃダメだよこういう思想の話は…。
辰彦さんは国に対して憤りを感じているんだもんね。だからそういう組織なんだもんね。
私、お手上げです。
人の思想に意見できるほど、私は偉くありませんもの。
でも。
貫いた結果、他人に迷惑をかけるのは…。
でもそれを解ってもらおうなんて、百年早いか……。
「あの…これから、とても差し出がましい事を言います。
ひとりごとだと思って聞いてください。
辰彦さんがしようとしていることは、辰彦さんにとって大事なことなのかもしれません。
でも、それを貫くことで、私だけじゃなくてたくさんの人に迷惑がかかるなら、
それは間違っているんです。
人にはそれぞれの考え方があって、
思想を強要してはいけないでしょ?
単純に考えれば、そうですよ。
誰かの犠牲の上になりたつ行為で、幸せにはなれません。
……終わり」
「……ぶっ!あっはっは。
百合ちゃん、俺に意見する女は、あとにも先にもあんただけだわ。
……覚えといてやる」