正義の味方に愛された魔女4
私とそう年の違わないだろう彼女の心には、
今、手配中の昨日の連れ去り犯人、高橋慎二が視える。


龍二が逮捕したあと、服役中だった彼を15年間ずっと待っていたのね。

やっと出てきたと思ったら、私のせいでまた捕まりそうになっている、と。


逆恨みの連鎖……。


服役したのは龍二のせいじゃないし、また捕まりそうなのは私のせいじゃないんだけどな……。

あぁ……。
彼の子供を妊娠できたかも知れない時期に一緒に居れなかった、っていうのもあるのね。





スーパーマーケットの駐車場には何台か車が停まっていて、
その内の黒い軽自動車の運転席に、昨日の彼が乗っていた。

私は後部座席に押し込まれて手錠でシートベルトに固定された。
リアウインドウに濃い色のスモークを貼ってあるので、私の姿は外からは見えないだろう。


「やあ、昨日ぶり、荒川百合さん」


「ごきげんよう、高橋慎二さん」


「おっ、俺も有名になっちまったもんだな。

俺はなぁ、藤波さんとは違って個人的な恨みを晴らしたいだけなんだよ。

荒川に固執する理由を知りたいか?」


「話したければお伺いしますが、それではただ思い出して気分が悪くなるだけでしょ?」


「口の減らない女だな」


口は一つしか持ってなくて、減りも増えもしませんよーだ。


この人は、15年前、傷害致死容疑で逮捕されている。
殺すつもりはなかった、と。
藤波辰彦の指示で怪我を負わせるだけの予定が、死に至ってしまったんだ、とね。

懲役15年に不満があるのね…。
刑期を終えた今も、警察と検察を恨んでいる。

でも、亡くなってしまったのよ、その人は。
結構えげつない方法で暴行し続けたじゃないの、あれじゃ助からないわ。
もっと色々経験できたはずの、その後の人生を、あなたが奪ってしまったのよ?

初めから殺意があったなら、もっと刑が重くなっていたはず。

何年か早く出てこられたことを良かったと思ってもいいのでは?


私は、彼が逆上するのを怖れて、視た事については何も言わずに黙っていた。





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