セシル ~恋する木星~
「大丈夫、俺はずっといるから」
そう言うと、山口はセシルの涙をそっと指先で拭った。
何世紀ものときを経てふたりは転生し、今ようやく結ばれたのだ。
果たせなかった過去世の思いが、浄化された瞬間だった。
「セシィって呼ばれたとき、違和感なかったのも納得ね」
「そうだね。俺はフランスで仕事するって決まったとき、何か通称みたいなのがあったほうがいいって言われて、ふと浮かんだのが『ミシェル』だったんだ」
「そう……。記憶の奥底にインプットされてたのね」
「そうだな」
「ミシェル」
「セシィ」
ふたりは今世のお別れの前に、もう一度深く愛し合った。
山口に逢うことは、きっともう二度とないだろうと、セシルは思った。
【本編終わり】