セシル ~恋する木星~
第8章 パリのガイドと「木星」
午後七時ちょっと前に、セシルと直子がロビーで話しながら待っていると山口が現れた。
「お待たせ」
「いいえ」
山口はいつもの藍色のスーツから、ラフなポロシャツに着替えていた。
「山口さんのスーツ以外の姿って、初めて見ました」
セシルが言うと、山口は頭をかきながら言った。
「いや、仕事中はスーツにネクタイが基本なんだけど、もう一応今日は終わってるからいいかなと思って」
「じゃあ、今からはオフなんですね?」
「そう。これはプライベートね」
そう言うと、ふたりにウインクして見せた。
山口の低音ボイスの「プライベート」という言葉とウインクに、なぜかセシルはドキッとした。