セシル ~恋する木星~
ホテルの前に停めてあった黒い車は高級そうに見えた。
「さぁ、どうぞ」
山口が助手席のドアを開ける。
「ありがとうございます」
右側に案内されたセシルは、一瞬戸惑いながらも乗り込んだ。
そうだ、ここは左ハンドルの国だったのだ、と乗ってから改めて思った。
カーステレオからはホルストの「木星」が流れている。
「あ、これ、『木星』ですよね。好きなんです、わたし」
セシルの口から思わず出た言葉に、「そう、よかった。だいたい運転してるときは、これが多いかな」と返す山口。
そんな彼に、セシルは急に親しみがわいてきた。