セシル ~恋する木星~


びっくりしているセシルに、にこっと微笑む山口。
きっと、これはフランス暮らしの長い山口にとっては、誰にでもするただの挨拶なのだろう。

「どう? 少しは落ち着いた?」

「ううん。逆にドキドキしちゃった」

「ごめん。日本ではあまりポピュラーじゃないか」

「うん。こんな人前で……」

「そうか……。悪かったなぁ」

「ううん、……。山口さんの気持ちはうれしかったから」

「よかった。なんかさ、あなたが淋しそうだと俺も淋しくなっちゃう」

「…………」

山口は今、確かに「俺」と言った。
仕事中なのに……。
無意識に出てしまったようだ。



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