セシル ~恋する木星~
第18章 Un ange passe(アンナンジュパッセ)


少し沈黙のときが流れた。

「今、天使が通ったね」
山口が言った。

「え? 天使?」

「うん。フランスではね、今みたいに会話が途切れて沈黙になったとき、『Un ange passe』(アンナンジュパッセ)って言うんだ。天使が通った、っていう意味」

「へぇ、オシャレ。さすがフランスって感じ」

「沈黙って、どちらかと言うと敬遠されがちでしょ? 気まずいとか」

「ええ、まぁ」

「でも、天使のお通りだと考えると、なんか祝福されてるようで、うれしいよね」

「そうですね。でも、さっきの沈黙、嫌な感じじゃなかったかな」

「そう? じゃ、リラックスしてるんだ」

「そうなのかな」

「うん。俺も、嫌な沈黙じゃなかったけどね」



< 86 / 201 >

この作品をシェア

pagetop