セシル ~恋する木星~
第18章 Un ange passe(アンナンジュパッセ)
少し沈黙のときが流れた。
「今、天使が通ったね」
山口が言った。
「え? 天使?」
「うん。フランスではね、今みたいに会話が途切れて沈黙になったとき、『Un ange passe』(アンナンジュパッセ)って言うんだ。天使が通った、っていう意味」
「へぇ、オシャレ。さすがフランスって感じ」
「沈黙って、どちらかと言うと敬遠されがちでしょ? 気まずいとか」
「ええ、まぁ」
「でも、天使のお通りだと考えると、なんか祝福されてるようで、うれしいよね」
「そうですね。でも、さっきの沈黙、嫌な感じじゃなかったかな」
「そう? じゃ、リラックスしてるんだ」
「そうなのかな」
「うん。俺も、嫌な沈黙じゃなかったけどね」