知らないこと。


そう、彼にはわからない。私の気持ちなんて。

欲しいものを素直に欲しいと言って、何の迷いも躊躇もなく手を伸ばせるほど、もう子どもでもないということ。

生きてきた月日で、私は知ったから。

求めるものに手を伸ばして、その手が宙をきって、行き場のなくなってしまうことの絶望を、哀しみを。

傷付きたくないから、初めから求めずに諦めてしまえば、何事もなかったように笑えることを。



「俺は諦めない」

そう言って、強い視線を向けられ戸惑う。

「.....なに、を?」


意味がわからなかった。言っている言葉の意味も、行動も。私の額に彼の額がそっとぶつかった。


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