知らないこと。
「....なにしてんの」
「別に」
「...別にって」
「....俺は欲しいものは、手にいれたい」
「...だから」
彼の肩を押し返して、"なにを"と言おうとして、言葉にすることはなかった。表情の見えた彼が、泣きそうな顔をしていたから。
「ほんと、あり得ない....他の誰かを、よりによって兄貴をずっと想ってるやつなんて」
「...なにそれ、意味わかんない」
「うるせぇ、もう黙れ」
そう言って、彼は私の唇に同じそれを落とす。
すると、彼がすっと起き上がり、私の腕を引いて立たせてくれる。そして、そのまま考える暇もなく、私の手を握り歩き始めた。
「....ねぇ、ちょっと、」
「......」
「どこ行くの?」
「.....帰るんだよ、バカ」
そんな冷たい言葉を吐くくせに、力強く繋がれた手は熱を持っていて。私は思わず笑っていた。
*end*