唄姫
raveの前


僕は、ためらいながら

ドアを叩く


“ガチャ”



「……イツキ…君…」

「香保里サン、行かないで………」

「………もう……、決めたの……、明日には……ココを…出る…」

「僕は……」

いつの間にか、涙が流れている


「僕は…、貴女の笑顔が好きで…貴女の声が好きで……」

「……ありがとう…」
僕の言葉が終わらないウチに、香保里サンが言う


それでも僕は、思いのたけを伝えたくて



「僕は………沢山……女の人と……愛のないまま…寝ました…。
そんな僕は……こんなに苦しいのは……初めてで………
僕は………、貴女を……失いたくなくて………」


僕が、全てを伝える前に



柔らかな腕で

甘い香りで


そっと

抱きしめられていた………



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