浅葱の桜
「失礼しやすぜ、旦那」
無遠慮に部屋の中へと入っていく才蔵。
同じ部屋へと足を踏み入れると、待人と目が合った。
「久しいな、姫」
「ええ。お久しぶりです、御父様」
御父様か。違和感しかないな。
そんなものの存在はとっくの昔に諦めていたから。
座れと促される。その言葉に従うと奥から顔を隠し、狩衣を身にまとった大人達がゾロゾロと現れて私の周りを囲んだ。
「な、何ですか」
言葉を発することを忘れたかのように黙って私を取り囲む彼ら。
「この調子であれば、『儀式』もそうしない内に執り行えるかと思われます」
「そうか。ならば準備を進めておいてくれ。時が満ちればそちらに行こう」
何の、話?
「御父様。それは一体どう言う意味ですか」
「そなたか隠れたせいで十年近くも遅れたのだ。その埋め合わせはせねばなるまい」
「何をですか!」
儀式とは何なのか。私は何のためにここに連れ戻されたの!?
「教えて下さい! 私は何のためにここに居るのです!?」
初めてのぞきこんだ御父様の瞳はゾッとするほど冷たくて思わず後ずさる。
「お前はお前だ」