浅葱の桜
頬を強い力で掴まれる。
「よいか。ここから逃げ出そうなどと、考えるではないぞ」
どうせ、お前に頼る伝など無いのであろう?
耳元で囁かれた言葉に心臓を鷲掴みにされた様に痛む。
頭に浮かんだのは風月堂の蜜月ちゃんに、新撰組の人達だった。
ただの一般人の蜜月ちゃんを巻き込む訳にも行かないし、新撰組を頼ることなど出来るはずない。
私ひとりで京の町を逃げ出すなんて以ての外だ。
そんな……。
彼が部屋から立ち去るのを感じたが動き出せなかった。
ただポタポタと目から水が溢れ出すだけ。
悔しかった。
私の無力さを感じて。
私が今まで生きてきた全てを否定された気がして。
喜びも悲しみも今までの生きてきた証全てが無駄だと言われた。
そう感じてしまって苦しい。
部屋に放り戻された後も涙が止まる様子は見せなくて。
しゃくりすら出ないのに。嗚咽さえ漏れないのに。
最後らへんはもう何に対して泣いているのかすら分からなかった。
「ひめ……さま?」
「わたし……ひめなんかじゃないよ……」
ただの、道具だから……。