浅葱の桜
濡れた視界に映るのは血の付いた刀を持った武士。
その眉は釣り上がっていて、私の事を良くは思っていないらしい。
「くそっ、あと少しだったのに。
俺の姿を見られたとあれば生かしてはおけないな。
……悪いが死んでもらう」
自分に殺すと宣告されているのに酷く他人事のように感じる。
ああ、死んじゃうんだぁって。
折角助けてもらってここまで来たのになぁって、それだけ。
ただ、それだけだった。
死に無頓着になると自然と体から力はぬけていくみたい。
「死ね」
振り下ろされる方ながやけに残像を帯びていて。
刀ってこんなに遅いんだ。
これに当たったら相当痛いよね。……そう、菊姉ぇだって痛くて、苦しんだ。
彼の事を黙って見据えると微笑みを残す。
……私、何か変な事でもした? 驚いた顔で動かなくなっている彼。
あ、そっか。私の顔は血で汚れてた。こんな私が笑うって……おかしいかな?
「ざんねん。もう少しで逃げられたのに」
突如聞こえてきた第三者の声に彼は驚きで振り返った。
あれ? 私、この声どこかで……。
その思考を遮るかの様に視界一杯に赤い花が咲いた。