浅葱の桜
ドオオオゥンーーーー。
「……ん」
けたたましい音が遠くから聞こえて目を覚ました。
また起きてしまった。もうこれ以上は寝てられないな。
ききを起こさないように布団からでるものの、辺りの異様さを感じた。
続けてなるこの音は大砲だ。それに、この場所が異様なくらい静まっていた。
何が起こっているの?
障子をあけて周りを見渡そうとした瞬間、廊下を走り抜けていく人影があった。
ここの侍女たちだ。皆血相を変えて屋敷の出入り口へと走っていく。
どう言う状況なの、これは。
状況を飲み込めずにいる私の前に現れたのはお父様だ。
「お前はここにいろ」
「どういうことですか」
「少々早いが姫。本来の目的を果たしてもらうぞ」
そう遠くない場所から煙と明かりが漏れているのが見えた。
「……何を、したんですか」
「屋敷に火を放った」
「ッ!?」
あの火はそれか!
「どう言う……つもりですか」
「陛下は我らの話を聞き届けてはくれなかったようだ。……故に一度頭を冷やしてもらうために離れることにした」
それがあの大砲の音か。
「それに屋敷を燃やすがどう関係しているのですか」
「術師から言われたのでな」
「贄を捧げるにはこの時がちょうど良い、とな」
心臓が鷲掴みにされたように痛む。
結局抗えない、か。
先程見た夢はあながち間違ってはいなかったようだ。
項垂れる私をよそにお父様は私の足を外に晒す。
「な……!」
そして、おもむろに取り出した麻縄で私の足を縛り出したのだ!
突然の出来事に動転していた私は為す術もなくギチギチに縛られ身動き取れなくなった。
「逃げ出されては困るのでな」
羽織を翻して消えていく背中を呆然としたまま見送る。
その間にも火は熱を感じるくらいに燃え広がっていた。