浅葱の桜
熱さで、薄着のはずなのにぼたぼたと汗が吹き出す。
ききは無事に沖田さんの元に辿り着いただろうか。
こんなご時世、まだ十にも満たないききを一人で行かせたのは失敗だった。
それでも、あの時の私にはそれしか思い浮かばなかった。
「は……っ」
煙がこの部屋にも立ち込めてきて喉が痛い。
この屋敷も崩れ落ちるのにそう時間は掛からないだろう。
そして、それと共に私はきえる。
名を持たないただの贄としての一生を終えるのだ。
その事に悔しさを感じるものの、悲しみはなかった。
こんな事になるなら、ちゃんと沖田さんに言伝しておくんだったな。急に居なくなってゴメンなさいって。
体が重たくなってゆっくりと畳の上に倒れる。
あれ? 泣かないって、そう決めてたのにな。
「何で溢れて来ちゃうんだろ」
嫌だ。これじゃあまるで私はここにまだ未練があるみたいじゃん。
もう出てこないで。
強く目を押さえても鼻を伝って涙はぼろぼろ流れる。
「や、だ」