浅葱の桜
刀のぶつかり合う響きと火事の燃え広がる音とが絶え間なく聞こえた。
「ッ!」
お互いにスレスレの剣戟を交わし合う中、砂利の踏みしめられる音が聞こえてそちらに顔を向ける。
「あなたは……ったぁ」
人のモノとは思えない力で持ち上げられた私は首が締まる息苦しさを零した。
「お前さえいなければ、主は、旦那様はこんな所で死ななかった」
「女中……がし、ら……。さん? ぐぅっ!」
「全てはお前が居たせいだっ!」
首筋に突きつけられる冷たい感触。
未だ戦いに集中しているらしい二人はこの様子に気が付いている様子じゃなかった。
「それは……どういう?」
「あの人は長州の恩為を思って行動していた。二十年、いやそれ以上前から!
贄を得るため、その為だけの子を成して、五年もの間育ててきた。
それなのに、そのモノに感情を移入させた実母と乳母に邪魔されて儀式自体を中止せざるを得なくなった!」
「母と……乳母って、菊姉ぇのこと?」
「そうだよ。母が手配して、乳母が実行した。そして罪悪を感じた旦那様の愛しい人は……!」
プツリと刃が首筋に沈む。後少し力が込められればその時点で私は呆気なくこの世からおさらばだ。
「毒を煽って狂った」
手が震える。
母が狂った? 私を逃がした後に毒を飲んで……。
「ええ、そうよ」