浅葱の桜
耳元で囁くのは魔の声だ。
「お前が全ての元凶だ! お前さえいなければ屋敷が燃えることも、旦那様があいつの手に掛けられることなかったんだ!」
どんどん深みにハマっていく。
「アンタなんか……いなければ良かったのに」
大きく振りかぶった短刀。
胸に収まりそうだったそれを弾いたのは。
「あんた誰?」
「くそ、かぁっ!」
「……沖田さん?」
血の滴る沖田さんの刀だ。
奥に見えるのは右手を押さえて蹲る才蔵の姿だった。
「君、屋敷の関係者だよね?」
私の腕を引っ張って引き寄せた沖田さんは据わった目で見据える。
「それが何だという」
「別に」
「邪魔立てをするな! 」
叩き落とされたものではない短刀を取り出した女中頭さんは血走った瞳を私に向けたまま固まった。
「が……はっ」
新しい鮮血の滴る刀に目をやった女中頭さんは手を胸にやった。
「こいつは……私からっ全てを、奪っていく……」
沖田さんが刀を引き抜いたと同時に赤い海を広げながら地面に倒れ伏す。
「あ……っ」
思わず伸ばしてしまった手を慌てて引き止められた。
「やめろ」
「何をーーーーっ!?」
「そんなことしたって誰も報われない。お前が死んだからって良くなることなんて一つもねぇんだ」
刀に手を伸ばしていた私の手を包み込むようにして沖田さんの左手が添えられる。
「でも、皆……私が、居たせいで、死んだって……!」
「そんな訳ない。君がこの場にいなくたって長州の連中はこの町に火を放っていただろうさ」
「でも…………!」