浅葱の桜

熱に浮かされて《沖田side》




「ハハッ。まさか……本当に貴様のような小童に俺が負ける、か」



斬られた右腕を押さえながら顔を上げた才蔵はその顔に苦痛を浮かべるでもなくただ笑っていた。


傷跡を引き攣らせながらも口を歪めさせる彼に底知れない恐ろしさを感じていた。



「残念だったね。こんな俺に負けるなんて、さ」



喉元に刀を突き付けたのにも関わらずその表情が変わることは無かった。


気味が悪いな。それこそ、あの嫌味な笑いしか浮かべない土方さんと同じくらい。



「別に残念だなんて思わんさ。弱い者が食われて強いものが生き残る。それは昔も今も変わらんものだろう」



弱肉強食とはよく言ったものだと彼は呟いた。


楽しそうに笑う才蔵を見ていると自分がしている事が酷く馬鹿らしく感じた。


俺は一体何を抱いてこいつと向かい合っていたのだろう。


憎しみ? 怒り? ……それとも、嫉妬?


複雑でどす黒く染まった感情の名前を俺は知らない。


近藤さんのために戦って、人を斬ってきた俺が相手と対峙するときに抱いたことのないような、そんな感情。



「どうした? 小童」

「んでもない」



私闘は禁止、だったな。


これは私闘に入るのか? なんて思いながら柄を握る手に力を込めた。



「最後の最期に面白ぇもんがみれたな」



ふっと息を抜いた才蔵の顔はやっぱり笑っていて。


愉快そうだったり、憎たらしい顔をだったりの違いはあれども結局こいつは笑った顔しか見せなかった。



「食えない奴」



払うだけじゃ取り切れなかった血糊を取り出した懐紙で拭う。


刀を収めると再び佐久の元へと戻った。


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