浅葱の桜



「早く戻らないと! 町の人の避難とか、私にも手伝えることがあるはずです!」



心はボロボロな筈なのになんでこんなにも人のことを思えるのかな?


どこまでも優しすぎる。不器用な優しさは自分自身を傷つけるのに。


そして、自分の優しさのためならどれだけ傷つこうと構いやしないんだから。



「佐久」



彼女が今抱えているのは闇を誤魔化した目だ。


恨みを吐かれ、その人を目の前で失った衝撃を必死で隠している。



「今は何も考えなくていい」

「考えなくていい?」



いっそ俺のことだけを考えていてくれれば。


こんな暗い顔をさせなくて済むはずなのにな。


頬に手を滑らせると困惑しながらもくすぐったそうに首を竦める佐久。



「そんなことしてたら、狼に食われかねないよ、佐久」


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