浅葱の桜
「トシ。そんな言い方はないんじゃないのか?」
近藤さんと呼ばれたその人は少し困ったように眉を顰めた。
振り返るとそこにはもう一人の男性が。
格好いい……。なんて、柄にもなく思ってしまった。
そこに立っていたのは、街中で見ても一際目を惹くような顔立ち。艶やかな黒髪は思わず羨ましい……なんて思ってしまうほどに。
怒ったような表情をしているのまで様になっていた。
「……なんだ」
「い、いえっ!」
ドスの低い声でそう言われるといいえと答えるしかないじゃないか……。
「こいつがか? 総司」
「ええそうです」
後ろの彼がそう答えると、彼はおもむろに立ち上がり、ヒュンと風を切る音が聞こえた。
「っ!」
「おい、小娘。今から俺らの質問に答えろ。嫌と言う選択肢はねぇからな」
首筋に当てがわれた刀が冷たい。
それと同じくらい上から刺さる視線も冷たいものだった。
「まず、一つ目。
テメェは何者だ」
何……モノ?
「それは、どう言う……」
「他の発言は許してねぇ。質問にだけ答えやがれ」
さらに刀を押し当てられる。こうなれば簡単に彼は私の首を切ることができるだろうな。
「……テメェは長州の手の者か?」
「ちょう……しゅ……う?」
長州には一度も巡業に向かった事はない。
近くに行くことすらなくて。名前ぐらいしか聞いたことがない。
そう言えば……何故、長州にだけは向かう事がなかった……
「質問に答えやがれッ!」
思考を遮る怒号に肩が震える。
「違います! 私は……」
「じゃあ何者だ? ただもんがあんな時間にうろちょろしてるわけねえからな。
ただでさえ最近は物騒なんだ」
そう問いかけられると言葉がでない。