浅葱の桜
なんで私はここにいるんだろう? ……私は誰?
「な、何者かなんて……私にも分かりません!」
つい、叫んでしまった。
「はぁあ? 分かんねぇだと?」
明らかに怪訝な顔をした彼。
「分からない。分からないんです……」
私にも分からないのだ。旅芸人をしていた筈なのに。
皆死んでしまって、私一人生き残っている。
ああ、頭が混乱してるのがわかる。
ポロポロと涙が溢れてきた。
「っと、おいおい……。何泣いてやがるんだ……」
「っく、っく……。わだじにも……わがらないっく、でずっ!」
初対面の人たちの前でこんなに泣くなんて。
恥ずかしい……っ。
「な、泣かないで貰えないか?」
「っ! は、はい! すいません、泣いてしまって……っ」
いつも通り笑って涙をごまかす。のはもう無理か。
「私は、美櫻と、言います……。それ以外は、まだ言えません……」
黙った私を誰も咎めようとはしなかった。
軽く目を伏せた私の脳裏に浮かんだのは花鳥座の皆の姿。
皆、あそこに残されたままなの?
……行かなきゃ。
「……行かなきゃ」
「はぁあああッ⁉︎ てめ、何言ってんだ……!」
驚き顔の彼を放っておいて手首を捩る。
「ごめんなさい!」
結び目が緩むと急いで足も外し、呆然としている三人を置いて外に飛び出した。