浅葱の桜
私はその場所を飛び出すと急いでみんなの元へと走る。
京の街の土地勘もない私はもう当てずっぽうだ。
それでも、昨日走った道を思い出しながら必死に走った。
すれ違う人にはギョッとした目で見られるし、何度も人にぶつかって謝った。
そしてようやく、記憶に残っている場所にまでたどり着いた。
ここを登れば……皆のところに着く。
ぶるっと恐怖で手が震えるけど、その手を押さえて私はその道を進んでいった。
進むにつれて、今までとは違う匂いに変わる。
……血の、乾いた匂い。
そう分かってしまう。
開けた場所に着くと、そこには昨日の惨状の跡が残っていた。
目も背けたくなるような死体の数々。皆わかる。昨日まで一緒に過ごしてきた仲間だから。
一番こちら側に横になっていた菊姉ぇの近くによるとその体を抱き起こした。
桜柄の着物を血で汚した菊姉ぇはそれでも安らかな顔をしていて。
「ック。きく、ねぇ……」
顔を汚していた泥を着物の裾で拭うとそっと地面に横たえた。
他の団員も同じように顔をきれいにして、菊姉ぇの横に順に並べた。
その中には私よりも若い子たちが何人もいて、その中には五歳の百合の姿もある。
百合は捨て子だ。だからお母さんがいない。
驚きで見開いた目をそっと閉じると菊姉ぇの腕に寝かせた。
お母さんって慕ってたもんね。
最後に運んだのは、桔梗さんの亡骸だ。袈裟に斬られた彼女が一番血に濡れていた。
その数刻前までの桔梗さんの笑顔を思い出すと悲しみでまた涙が溢れてくる。
桔梗さんの顔を拭い、乱れた髪を整えると一番端にそっと横たえる。
……生き残ったのは。私一人。
ここにいるのは花鳥座全員だった。
「私、一人取り残されちゃいました」
独り言に答えてくれる声もない。
ああ。ああ。
「あああああっ!」
苦しくて、苦しくて。
なんで皆私を残して逝ってしまったの!
とっくに流し尽くしてしまったはずの涙が湧き水のようにとめどなく流れ落ちていった。