浅葱の桜
慣れない日常
次の日から私の生活は変わった。
観察方の仕事は京の街の尊皇攘夷派を見つけ出し、新撰組内の間者捜索などが主らしい。
そのためか他の隊士に紹介されることもなく、昼間のうちはほとんど屯所の中にはいなかった。
「佐久。どうかしたんか?」
「へっ? や、山崎さん……。な、なんでありませんっ」
「ははっ。言葉が可笑しゅうなっとるで」
いたたまれなくなって私は山崎さんからメオそらして顔を伏せる。
京の街の風景が新鮮で感動していた、なんて絶対に言えない!
慣れない男装はなかなか自分の中に馴染まない。
水辺に映る自分の姿は今までとかなりかけ離れていて。
櫛なんてあるはずもない沖田さんの部屋で乱雑に髪を結んで、男物の着物を着ている。
化粧っ気のない顔には女らしさなど微塵も感じさせなかった。
……それは元々かもしれないけど。
それでも、当たり前の日常が崩れ去った後の世界は私に驚きしか与えなかった。
––––まるで、今までの自分を消し去れと言わんばかりに。
そんな考えに陥った頭を振って落ち着かせる。
そんなこと、出来るわけない。
今まで、二十年間で作り上げてきた自分を消すなんて。
「……無理に決まってる」
今の私には。
口から吐き出された言葉でしか、この恐怖と戦う術を持ち合わせていなかった。