浅葱の桜
「……こ、こんなのでいいんですかぁ?」
ふ、不安しかない。あんだけ言ったんだからやるしかないけど。
「大丈夫や! 立派な京美人に見えるで」
「あ、アリガトウゴザイマス」
感情込めて言えないよ。
今私が来ている服を見て思わず思いため息をこぼす。
私が着ているのは今までの服とは違い、女物の着物だった。
……普通はそれが当たり前なんだろうけど、二月近くも男装で過ごしてたらその動きやすさに気付くわけで。
そうでなくともこんなものを着た記憶がない。
一座の皆の中にはいた気がするけど。
可愛くないと自覚している分、余計に似合っている自信がない。
「安心しな。佐久は元がいいから誰もが振り向くべっぴんさんや」
「お世辞をどうも」
「素直に受け取ってくれんあたりが佐久らしいな」
ケラケラ笑う山崎さんに釣られるように私もクスッと笑みをこぼす。
膝の上に置いていた鏡で自分の顔を確認する。
白粉を使ったせいか少しだけ白くなった肌に赤く塗られた口紅は際立っていた。
乱雑にまとめていただけの髪は綺麗に結われていて確かに普通に馴染めそうだ。
「……山崎さんってなんでもできますね」
女物の化粧までできるなんて只者じゃない。
「ま、まぁ、そこは……な」
急に歯切れの悪くなった山崎さんだったけど、時間になったらしく、土方さんが迎えに来たため、結局問い詰めることはできなかった。