浅葱の桜
とにかくあの場所から離れたくて走った。
何度もこけかけたし、人にぶつかったけどそれ以上にあの人から離れたかった。
今までにない色の瞳をしていた。
本能的に怖いと思ったのはあれで二度目だ。最初は殺されかけた時と、今さっき。
場面は全く違うのに本気で怖かった。
壁に寄り掛かるようにして震えていると。
「佐久……?」
この声は。
「沖田……さん?」
馴染みのある声にぽろっと一粒涙が溢れる。
近づいてきた沖田さんの胸に思わず飛び込んだ。
「おわっ!」
少しでも今さっきの怖さを拭えると信じて。沖田さんには申し訳なかったけど。
未だに震える体を抑えられない。
抱きつかずに着物を握りしめていると沖田さんはさりげなくだけど私の背中に手を回してくれていて。
その触り方はちょっと怖がっているようだったけど、それでも私を慰めようとしてくれているのが嬉しかった。
「なんでそんな格好してんだ……って言いたいところだけど。そんなこと聞いても意味ないね」
なんとなく察したのだろうか。それ以上は沖田さんは何も聞いてこなかった。
ただ一言だけ。ほとんど呟くような声で、
「俺、今から団子食べに行くけど……佐久も付いてくるか?」
と言ってくれて。
「沖田さん。私と一緒でいいんですか」
女の格好してるのに。
「泣いてる奴を一人にはできない……から」
その優しさが少しだけ、嬉しくて。
ああ、また泣きそう。