浅葱の桜



「……ん」



あ、れ? 私寝てたの?


いつの間に。


空を見上げると月はかなり高い位置に上がっていて、先ほどよりも随分と涼しかった。


隣にいたはずの山南さんの姿がない。自分の部屋に戻ったのだろうか。


いくら涼しくなったとはいえどまだ六月だ。夜は暑い。


額から流れ落ちていく汗を拭いながらぼーっと月を見上げた。


ああ、そういえば昔もこんなことあったな。


あれは……、そう。五年ほど前の話。


どこかのお偉いさんに気に入られたかなんかで豪勢な屋敷で皆が芸を披露していた時のことだ。


私は屋内でやるには危険すぎると言われて縁側に一人でいた時のこと。


寂しいなんて言えるはずもなく、泣きかけていた。


そんな時に隣に座ってくれたのが菊姉ぇだった。


出番が終わった直後の菊姉ぇは黙って私の隣に座ってくれた。


その時は私も尖っていたから、寂しくしてたなんて気づかれたくなくて話しかけなかったり。



「……菊姉ぇ」



懐かしいな。


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