浅葱の桜
「……!」
刀が欠ける。
刀の切っ先が折れてしまった。
それに驚いたのは私だけではない、沖田さんもだった。
「ざまぁねぇな。わっぱ」
振り下ろされた刀。私は咄嗟に二人の間に割って入った。
「何だ、姫。俺の手を取ってくれるのではなかったのか?」
「沖田さんに手を出すのなら話は別です。これ以上傷つけさせはしません」
これは宣言だ。自分に向けての。
こうでもしてないと手の震えが止まってくれない。
「ここは引いてください。私は、逃げも隠れもしません」
「佐久!」
沖田さんの叫ぶ声もここでは無視。
「ただし。もし新撰組のみなさんに手を出すつもりならば私はその場で死んでやります」
そこでようやく男は顔色を変えた。
「私に死なれては、困るのでしょう?」
いつの間にか喧騒はピタリと止んでいた。
「フッ。面白おかしく育ったもんだなぁ。姫さんよ。
いいさ、一応はその条件飲んでやるよ。
俺の名前は才蔵。忘れてくれるな」
才蔵と名乗った男はそのまま窓から身を翻すと闇夜に紛れて消えた。