浅葱の桜
才蔵と名乗った彼の姿が見えなくなった途端、足の震えが止まらなくなって膝から崩れ落ちる。
「佐久!」
這いつくばうようにして近づいてきた沖田さん。
無理に笑みを作ろうとするとその頬を引っ張られた。
「いたいれふ」
「無理に、笑う必要なんてねぇ」
その言葉に胸が詰まる。
見上げた沖田さんの顔は痛々しそうに歪んでいた。そんなにひどい顔をしていたのだろうか。
「悪かった。俺のせいで」
俺のせい、その言葉が何を示してるのかが最初はわからなかった。
「そ、そんなことないですよ! あれは、私が勝手にした事ですから!」
正直、言い過ぎた気もする。あそこまで言わずとも彼は引いてくれた気がしなくもない。
優しく、引っ張られた頬を撫でられる。
カサついた指が湿って私の頬を滑る。
「だから、泣くな」
「っ」
後頭部に回された手が私の体を優しく捕らえた。
ぼろりと心の壁が崩れ落ちていく。
……怖い、怖かった。
あの鮮血に塗れたギラりとした目も、菊姉ぇを殺した光景を思い出してしまう。
ガチガチと震える歯が私の恐れを表していた。
ボロボロと着物を汚す涙を止めることが私には出来ない。
「ごめ、んなさ……い」
何に対して謝っているのか、自分でも分からなかった。
ただただ嗚咽を零しながら、沖田さんの腕の中で震えていることしか出来なくて。
私は土方さんが現れるまでその場を動くことすらできなかった。