浅葱の桜
菊姉ぇは私を庇うようにして男の人を睨んだ。
頰に一文字の傷の付いた男は片手に血糊のべったり付いた刀を持っている。
「何かしら」
余裕そうな表情を浮かべた菊姉ぇ。でも私には分かる。
相当菊姉ぇは焦っているって。
それでも癪に障ったようで、男は刀を振るう。
驚きで動けない私。
そして私の両目はビチャリと生温かい物で覆われた。
紅くなった視界で震える声。
「き、菊姉ぇ!」
「大丈夫よ、美櫻。気にしないで」
腕を斬られた菊姉ぇはそれでも気丈な笑みを浮かべて。
深紅に染まった視界で男は嘲笑った。
私を、そして菊姉ぇを。
「……もう……見つかってしまったのね」
「十五年じゃ、満足しねぇか?」
「ええ、まだ、二十歳だもの。若すぎるわ」
「懸命に探すこっちの身にもなって欲しいものだ」
何を、話してるの? それって、私の事……?
二十歳になるのなんて、ここには私しか居ない。
「見つからないように転々としていたのに」
「ご苦労様、としか言いようがないな」
「……美櫻」