浅葱の桜



「ぁ?」



扉を開けたのは沖田さんじゃなくて土方さんの方だった。


嫌そうな顔をしながらもキチンとした格好をしている。


あまりにも格好と表情が違いすぎて沖田さんも何事かとしばらく固まっていた。



「「……」」

「土方さん、どうしたんだ」

「チッ。何でこんな面倒な時に来んだよ」



ハッキリと舌打ちをした土方さんは気だるそうに壁にもたれ掛かる。



「なぁ、佐久」



ビクッと全身が震える。冷や汗と、心臓のドクドクが止まらなかった。



「な、ナンデショウカ」

「俺は総司を見張ってろって言ったよなぁ?」



やっぱりいいいい! こうなってしまった。


だから、来たくなかったのに。



「何かこうなる予感がしてたから手の空いてるテメェに任せたってのに」

「め、面目もありません」



任された事さえ出来ずに自分の好き勝手にやってしまう私…………。


怒られるのを甘んじて受け入れるしかありません。



「俺が佐久の言う事を聞かずに飛び出してきた。佐久は悪いことなんてしちゃいないぜ、土方さん」

「……んなこたァ聞いてねぇよ」

「何でそんなイライラしてんだ」

「今からちと野暮用だよ。それがめーーーー」



面倒だと、言いかけた口を土方さんははっとした様子で閉ざす。



「とりあえず、今から俺は屯所を開ける。近藤さんも居ねぇからここの事は頼んだ」



肩を叩かれた沖田さんは少しよろめく。



「お、おい!」



振り返った沖田さんは土方さんに手を伸ばす。


けれど、それは羽織りに軽く触れた程度で何かを掴むことは出来なかった。


その体勢のまま、固まった沖田さん。


その手を避けようと壁に張り付いた私はその冷たい壁にほんの少しだけ癒されてしまった。



「くっそ、これじゃ結局屯所の中から出れねぇーっ!」



髪を掻きむしった沖田さんの言葉にはたと気づく。


ああ、これも結局土方さんの策略か。


自分の納得のいかないことでも利用できるものはする。


それが土方さんだとは知っていたけれど流石だなぁとしか言いようがない。



「ハハハハ、はぁ……」



やっぱりあの人は鬼だな。


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