浅葱の桜



一通り掃き掃除を終えると同じく屯所待機の山南さんの部屋へと向かう。


未だ鍛錬中の沖田さんに変わって土方さんからの連絡事項を聞きに行くのだ。



話は沖田さんに付いて出ていったせいで聞けてなかったし。


一応お茶を持っていった方がいいかと思って食堂に寄ってから向かった。


暑いから氷を入れて持っていこっかなぁ~。


と思って湯のみの中にお茶と氷、そしてこの間貰った水ようかんをお盆の上に乗せる。


廊下に出るけれど、あまりの静かさに違和感を感じてしまう。


今さっきまでは外にいて実感しなかったけど、皆さんが居ないとこんなにも静かなんだな。



いつもは声に溢れて居るせいで聞こえない蝉の鳴き声がジリジリと響いて更に暑く感じる。


結んだ状態でも腰に届きだした髪。いい加減整えるべきかな。


さすがにこれ以上は邪魔になるか……。



「山南さん。桜庭です」



一応声を掛ける。


中からどうぞと聞こえるとその扉を開けた。


中では山南さんが机の紙に向かって筆を走らせていた。



「す、すいませんっ! お仕事中でしたか!」



邪魔するわけにはいかない。一回出直した方がいいよね。



「ああ、いいですよ。ちょうど休憩しようと思っていたところですから」



おずおずと引き下がろうとしていた私を呼び止めた山南さんは筆を置くと体を向き直す。


なんだか申し訳ない気持ちになりながらもこのまま帰るのも失礼な気がしてお盆を置く。



「冷やしたお茶ですか。この暑さですからね、助かります」

「それほどでも……ないです」



こうも自然に褒められるとなんだか照れるなぁ……。



「それで、土方くんからの連絡でしたね」

「は、はい! どんな事を言われたのでしょうか?」

「特に変わったことは仰ってませんよ。ただ、いつまでこの任務が続くか分からないのでこっちも気を張っておいて下さい。だそうです」

「それは……どういう意味で?」



すいません。馬鹿なものでその理由の見当が皆目つかないのです。



「不慣れで決して居心地の良い場所ではないでしょうしね。こちらとの人員交代や、増援が有り得るということです。気を緩ませて戦力にならないというのは困りますからね」

「ああ。なるほど」



そんな事になったら沖田さんは真っ先に手を挙げて行くだろうなぁ。


最近、色々と鬱憤が溜まってるご様子なので。



「あ、ですが沖田くんは出来るだけ屯所内から出すなとの事です」

「は!?」


ひ、土方さん!?



「ど、どうして土方さんはそうまでして沖田さんを任務に就けないんですか!?」



こんな事知れたら確実に反抗しだす! 意地でも働こうとするのが目に見えていてこっちの心労が……。



「それは……」



口ごもった山南さん。考えるような素振りを見せたにも関わらず、結局私には何も仰ってくれなかった。


下手に干渉するな、という事だろうか。


その話題を深く追求する事が出来ないまま、間を持たせるものが無くなってしまいその部屋を退いた。



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